ジャッジ 裁かれる判事/法廷で繰り広げられる父子の葛藤
2015.01.24 Sat. 20:39 -edit-

名優ロバート・デュヴァルが第87回アカデミー賞助演男優賞にノミネートされているにもかかわらずやけに公開館が少ないこの作品。都内で4箇所って一体どういうことなのか。しかも主演はロバート・ダウニーJrなのに。まあいい、本題。この作品、法廷サスペンスとしてカテゴライズされてることが多いし、実際予告編ではそうだとばかり思っていたが、実際には父と息子の関係を描いたヒューマンドラマだった。法廷サスペンスは切り口ってことでしかない。今回のロバート・ダウニーJrは金のためなら有罪が明らかでも無罪を勝ち取る辣腕弁護士ハンク・パーマーという男だ。

一方のロロバート・デュヴァルはハンクの父親、インディアナ州の田舎町で42年間判事を勤めてきたジョセフ・パーマー。二人は絶縁状態だったのだが、ハンクは母の葬儀のために田舎に戻ることに。葬儀が終わった夜、父は一人で車を運転して出かけるのだが、翌日ひき逃げ遺体が発見される。ジョセフが絶対に他人に運転させないという彼の車には被害者の血痕が…。そしてその被害者はジョセフが以前捌いた男だった。かくしてジョセフは判事でありながら殺人の容疑者となってしまう。ハンクは父の弁護人になり、何とか無罪を勝ち取ろうとするのだが、ことは簡単ではない。

面白いのは、法廷サスペンスでありながら、弁護人ハンクの敵は検察官ではなく、自らの父ジョセフその人だということ。ハンクの子供の頃から鬱積した、父の自分に対する仕打ちへの怒り、しかしそれとは別に肉親として父がそんなことをするはずがないという確信。それに対して、ジョセフの42年間積み上げた判事としてのプライドと、息子に対する複雑な愛情。この両者の想いのぶつかり合いを法廷という場を介して描いているんだね。だから、いわゆる法廷ものの定番の展開である、追い詰められた主人公が最後の最後で大逆転!みたいな胸のすく展開にはなっていない。

まあ簡単に言うなら、田舎の頑固親父と若いころやんちゃしてた息子が、時を経て出会ったら…ってこと。年を取り病のせいで糞尿垂れ流し、しかも殺人容疑まで着せられた父親。そんな父親を今救えるのは自分しかいない。そこにあるのは理屈抜きの親子の愛情であって、逆に言えば自分が幼い時だって父は父なりに理屈抜きで息子を愛していたワケだ。ロバート・ダウニーJrは『アイアンマン』や『シャーロック・ホームズ』のイメージが強いので、軽いやんちゃなオジサンというのがはまり役だし、逆にロバート・デュヴァルはお堅い男のイメージにピッタリなんで、観ていてすんなり落ち着く。

ところで、ハンクの弟で知的障害を抱えているデイルは帰省してきたハンクにタロットカードを渡す。何のカードだったか忘れてしまったけれど、ふと思ったのがこの作品の原題「The Judge」ならぬ「Judgement」のカードの意味だった。正の位置で「復活、結果、発展」の意味であり逆位置で「悔恨、行き詰まり、悪い報せ」の意味だというけれど、裁判の結果は関係なく、ハンクとジョセフの父子関係は逆位から正位に変わったとも言えるんじゃないかな。割とオーソドックスな展開ではあるけれど、絡み合う父子の想いのぶつかり合う法廷の迫力もそれはそれで説得力があったと思う。


ストーリー:金で動く辣腕(らつわん)弁護士として知られるハンク・パーマー(ロバート・ダウニー・Jr)は、絶縁状態の父ジョセフ(ロバート・デュヴァル)が殺人事件の容疑者として逮捕されたことを知る。判事として42年間も法廷で正義を貫き、世間からの信頼も厚い父が殺人を犯すはずがないと弁護を引き受けるハンクだったが、調査が進むにつれて疑わしい証拠が次々に浮上し…。(シネマトゥデイ)
- 関連記事
-
- フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ/俺も無理
- ドラフト・デイ/ドラフトの流れ解説します
- ジャッジ 裁かれる判事/法廷で繰り広げられる父子の葛藤
- やさしい本泥棒/彼女こそが希望だった
- あと1センチの恋/意外に泣けなかった…
テーマ: 映画レビュー
ジャンル: 映画
« シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア/かくも個性的なヴァンパイアたち
ビッグ・アイズ/エイミーの素晴らしい眼力 »
コメント
王道ではあるけど
Caineさん☆王道の親子の絆を取り戻す映画ではあったけれど、法廷劇とばかり思っていたら、ヒューマンドラマ&コメディだったのが、なかなか良かったわ☆
配役がほんと、ピッタリだったねー
URL | ノルウェーまだ~む #gVQMq6Z2
▶まだ~む
ね、法廷劇かと思いきやそうじゃなかった。配役もいいし、話もいいのに何でまたこんなに公開館少ないんだろうねぇ。
これよりつまらない作品いくらもあるのに…
URL | Caine #5spKqTaY
こんばんわ
相手弁護士がビリー・ボブ・ソーントンだっただけに、これはこれで法廷サスペンスとしての面白さを追求しても良かったかな?とも思えてくるのが微妙にもったいないところ。別にあの名優を起用しなくても良かったのに…。
でも映画としてはロバート・デュバル閣下の人生最後とも思える演技に魅せられましたよ。
URL | にゃむばなな #-
▶にゃむばななさん
個人的には、法廷サスペンスじゃなかったからあんまり日本受けしないと思ったのかしら?とか思ったりも。法廷サスペンスは安定して面白いですしね。ロバート・デュバルはまたノミニーですがどうなるかなぁ…
URL | Caine #-
いつもお世話になっております
TBありがとうございましたm(_ _)m。お父さんの姿や言葉が心に染みました、たまたま近場の2軒のシネコンで上映していたので気にしていませんでしたが、改めて見てみると確かに公開館数が少ないですね、同じくアカデミー賞にノミネートされていて多くの映画祭で話題になっている『バードマン』も似たような規模になりそうで怖いです。
URL | かとちゃん00 #mQop/nM.
▶かとちゃん00さん
公開館が少なくてもちゃんと作られた面白い作品だったと思います。もしかしたらロバダウさんということで、ちょっとこうイメージが違うから…的な思惑が働いたんですかね?こういう時いつも思うんですよね。結局アカデミー賞だろうがなんだろうが、所詮は映画ファンに対してしか訴求しないのかなって…orzURL | Caine #5spKqTaY
観るべしだよね~
この作品の上映館が少ないのって勿体ないよね~
大きなテーマでもある「家族」のドラマは、ヘヴィなんだけど
心地良くユーモアが流れてる
気持ちの塊は男それぞれに存在してる部分をクロスして描いてたな
歳を経ていくとともに「存在しているモノ」が形を変えて大きくなってる
そこに「裁判」で、成長して変化した塊≒父、自分の過去と対峙して
「家族」のドラマともなってた。
作品の世界を撮った構図も上手かったねぇ・・・
裁判のシーンとか「やった!!!!上手い!!!!!」
ジェレミー・ストロング氏に^(ノ゚ー゚)ノ☆パチパチ☆ヾ(゚ー゚ヾ)^
URL | qグレード高い #-
▶qちゃん
実は役者にあて書きなんじゃないかと思うほど脚本が良く出来てると思いまする。ロバダニさんもなんかいつものちょっとおちゃらけっぽい部分は封印してわりと真面目だったしね。結構ロングランになりつつありますね。じわじわ来てるのかなぁ。
URL | Caine #5spKqTaY
トラックバック
故郷に裁かれる金満弁護士 公式サイト。原題:The Judge。ロバート・ダウニー・Jr、スーザン・ダウニー製作、デヴィッド・ドブキン監督。ロバート・ダウニー・Jr、ロバート・デュヴァ ...
佐藤秀の徒然幻視録
敏腕弁護士が疎遠だった父を救うため奮闘する法廷サスペンス「ジャッジ 裁かれる判事」。法廷ものと同時に親子ものとしても楽しみたい。ハンクは“金で動くやり手弁護士”として ...
映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評
★ネタバレ注意★ 新年早々うっかりひと月近くもブログを放置してしまいました。 更新がない間も変わらずご訪問いただき、ありがとうございました。 特に『間宮兄弟』と『ミスティック・アイズ』のエントリーは、思いがけない人数の方に読んでいただけたようで望外の喜びでした。地上波で放映されるかなにかしたのかしら? 時々ありますのよ、思いがけない昔の記事にアクセスが集中するという椿事。...
キノ2
家族の真実を暴く見事な法廷劇。 殺人容疑の父を弁護する敏腕弁護士の息子、サスペンスのようであってそうではない。 絶縁していた息子が父の弁護をすることで和解していく・・・・とうような、よくある話のようであってそれだけじゃない。 本当の愛を見つけた瞬間、もう涙なくしては観られない。
ノルウェー暮らし・イン・原宿
シカゴのヤリ手弁護士ハンク・パルマー(ロバート・ダウニー・Jr)は、母の葬儀のため、久々にインディアナ州の田舎町に帰郷する。 地元で長年判事を務め、人々の尊敬を集める父ジョセフ(ロバート・デュヴァル)とは折り合いが悪く、ほとんど絶縁状態だった。 葬儀が終わり、引き返そうとしていたハンクに、ジョセフが殺人の容疑で逮捕されたという一報が入る。 正義を貫いてきた父が殺人を犯すはずがないと...
心のままに映画の風景
守るべきものは父親の大いなる功績か、それとも残り少ない余生か。 法廷サスペンスとしての面白さは全くないものの、ホームカミング作品としては老齢の父親を持つ男性にとっては ...
こねたみっくす
監督:ウベルト・パゾリーニ 出演:エディ・マーサン、ジョアンヌ・フロガット、ロバート・ダウニーJr ロバートデュヴァル カレン・ドルーリー、アンドリュー・バカン シカゴの辣腕弁護士ハンク・パーマー強引で、強気で有罪を無罪にする男、ハンク・パーマーだけ...
Said q winning
【概略】 敏腕弁護士・ハンクは、殺人事件の容疑者として逮捕された絶縁状態の父である判事・パーマーの弁護を担当することになるが…。 サスペンス 父は犯人なのか。判事の容疑は、まさかの殺人。絶縁していた弁護士の息子は、判事の父を無罪にすることができるのか―? “金で動くやり手弁護士"ハンク。そんな彼にとって弁護士史上最高難度の事件が舞い込む。人々から絶大な信頼を寄せ...
いやいやえん
| h o m e |