マダム・マロリーと魔法のスパイス/入り交じる感情がスパイスそのもの
2014.11.07 Fri. 23:18 -edit-

地味だがとても人間味あふれる、見終わった後に心が和む作品だった。インドのムンバイでレストランをやっていたカダム家に生まれたハッサンは若き天才料理人だ。火事で店を失った一家は安住の地を求めてヨーロッパを彷徨うのだが、たまたま車が故障したばしょが南フランスの山間の小さな町だった。何かが気になりそこでインド料理店を開くのだが、目の前には何と1つ星のフランス料理店が…。ってなわけで、プライドの高い料理店のオーナーと新興のインド料理店の本人たち曰く“戦争”が始まるのだった。

この物語には様々な人間が登場するのだけれど、それぞれの心のあり方がとても丁寧に描かれている。結論から言えば2つのレストランは仲良くなってめでたしめでたしなんだが、そこに行き着くまでの人間模様は実に複雑だった。プライドが高い女主人マダム・マロリー(ヘレン・ミレン)は天才料理人ハッサンの実力に触れ、彼の才能を花開かせようと変わっていく。そしてインド料理店の主人でハッサンの父は、そんなマロリーとぶつかり合い交流するうちにお互いの理解を深めていくのだ。

更にハッサンはハッサンで若者らしく新しく触れたフランス料理の世界から新しいモノを学び取ろうとし、その中でマロリーの店のスーシェフであるマルグリットという女性を好きになる。マルグリットはマルグリットで、ハッサンの才能に憧れと同時に嫉妬を抱くも、やはり彼を愛してしまう。ここでは主だった登場人物だけ簡単に書いているけれど、脇役も含めて、気持ちの変化が時系列でゆっくりと、あるいは急激に緩急をつけて描かれていて、それだけにどのシーンを切り取ったとしても、その人間の気持ちが素直に腑に落ちてくる。

この複雑に入り交じる登場人物の感情は正に様々なスパイスそのもので、それが渾然一体となり観ている私達を満足させてくれるのだ。実はそれは人間関係そのものにも言える。ハッサンは最後に「3つ目の星は皆で目指します。」と言う。それはマロリーが、ハッサンが、マルグリットが、カダム一家が、町の皆が…それぞれがスパイスであり、渾然一体となって一つ一つの素晴らしい料理を生み出すという意味だろう。料理のしずる感、南フランスの景色、何だか無性に美味しいインド料理、フレンチが食べたくなった。
ちなみにハッサンがパリで勤めたレストランはフェラン・アドリアのエル・ブリをイメージしてるのかな。


ストーリー:インドのムンバイでレストランを営むカダム家の次男として生まれたハッサン(マニシュ・ダヤル)は、名料理人の母から絶対味覚を受け継ぐ。だがある晩、彼らの店は選挙絡みの暴動により全焼し、母親まで失ってしまう。失意の父(オム・プリ)は子供たちを連れてヨーロッパに移住し、南フランスにある自然豊かな山間の小さな町にたどり着く。(シネマトゥデイ)
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テーマ: 映画レビュー
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コメント
URL | ふじき78 #rOBHfPzg
ある日突然現れて目の前にインド料理屋さん開くて(笑)しかも、周囲の雰囲気ぶち壊しのインディアンな空気感だしまくられたら…w
URL | Caine #5spKqTaY
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