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BASED ON THE INCREDIBLE STORY最近とみに多い「この物語は実話です」の作品。1996年に実際にエベレストで起きた遭難事故を描いており、それはエベレスト登山史上最悪の遭難事故とも言われている。(この物語以外にも別の場所で3名が死亡し、合計8名が遭難死した)物語冒頭では、エベレスト登頂に関してこの事故に到るまでのざっくりとした流れがナレーションで語られていた。曰く、そもそもエベレストは1953年に初登頂が以前も以後も、プロの登山家が国家プロジェクトとして挑戦をしていたものだったのだが、1990年代半ばから徐々にプロではない一般登山家が、シェルパやガイドの手助けにより登頂を目指す商業登山が盛んになっていったのだという。具体的に言えば、本作ははニュージーランドのアドベンチャー・コンサルタンツ社(AC社)が6万5千ドルで公募し、AC社の探検家ロブ・ホール(ジェイソン・クラーク)が引率する登山において、ロブを含む5人もの登山家が亡くなったという実話である。
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圧倒的な映像の迫力この映画の最大の見所はその映像だ。特にIMAX3Dによるとてつもない臨場感は、正に観客をエベレストへと連れて行ってくれるだろう。晴れた日の山々の稜線、嵐が山の下から吹き付ける時の浮遊感、ホワイトアウトして何も見えない斜面、それらがハッキリと眼前に広がり、劇場内で思わず寒さを感じてしまうほどだ。日本が誇る撮影監督・木村大作の手による『劔岳 点の記』での山々の映像は、その美しさや迫力において、洋の東西を問わず過去最高の映像の一つであると私は考えているが、本作は3Dならではの立体感、即ち高さの概念が加わり、より圧倒的な映像表現となっていた。それと同時に、俳優陣の必死の演技も見逃せない。エベレスト登頂において最も危険であるデス・ゾーン、標高8000m以上ではそもそも人間は生存できないほど酸素濃度が低く、平均気温はマイナス35度という世界だ。酸素ボンベがなくなり息も絶え絶えになり、極寒に晒され体力はどんどん奪われる。文字通り死と隣り合わせであることを彼らは表現していた。
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重なりすぎた偶然と必然のマイナス要素それにしても、陳腐な言い草ではあるが、自然の猛威の前には人間などあまりにも儚い存在だ。それでなくてもほんの少しの油断、ほんの少しの判断ミスがいとも簡単に生命を奪い取る世界なのだ。にも関わらず、この登山にはあまりに杜撰なことが多すぎた。商業登山隊が多すぎる上に、アタックの日が重なりルートが大混雑していたり、本来の自分の役割を果たさないガイドがいたり、体調不良にも関わらず下山しようとしなかったり、嵐が近づいているにも関わらず無理に登頂を強行したり…。ボブの姿は確実にプロフェッショナルの登山家ではあったが、結局その彼をもってしても、重なりすぎた偶然と必然のマイナス要素の前では無力だったのである。特に我々日本人としては、5人の遭難者の中に日本人・難波康子さんが含まれていたことにも胸が痛くなるだろう。彼女は登頂には成功し、七大陸最高峰登頂を当時は世界最高齢の47歳で成功したほどの人だったのだ。
ボブは遭難したまま一夜を過ごす。妻は衛星電話を通じて彼を励まし、同僚もなんとかそこから動けと必死に訴えた。しかし、既に彼の肉体の限界は超えていて動けない。救助に向かったシェルパたちも嵐で引き返すに至っては、もはや彼が死んでいくのを指を加えて見ているしか無い。そしてそれは無線機を通じて他の登山隊の人々も聞いている。あまりの無力感、絶望感…。デス・ゾーンで亡くなった方の遺体の回収は不可能なのだそうだ。極寒の地では腐敗すらしないため、肉体はあっという間にミイラ化し、それ故に山頂付近にはそれこそ100年近く前の遺体も放置されているという。ボブの遺体も発見はされたが、回収不能で今もデス・ゾーンに眠っている。
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