恐ろしいほど宣伝打ちまくりで、何やら観る前からすっかり観た気になってしまうこの作品。ブロードウェイ・ミュージカルで大成功しているだけでなく、日本でも大ヒットしているのだから、映画として多少脚本が変更されていたとしてもそりゃ面白くないはずがない。そんな具合にハードルはドンとあげて観に行ったのだけれど確かに面白かった。まあ何といいますか、否定する要素がないというかね…。主人公アニー(クヮヴェンジャネ・ウォレス)は4歳の時に捨てられて幾つもの里親の家を転々とし、今はミス・コーリーン・ハニガン(キャメロン・ディアス)の里子になっている。

毎週末に両親をが自分を捨てたレストランの前で閉店まで待っていたり、ハニガンには「月157ドルもらうために里親をしてる」なんて暴言を浴びせられたり、ちっとも良いことは無いけれど「明日はきっと良いことがある」と決して希望を失わないアニー。恐ろしいほどのポジティブシンキングは大人ならタダの現実が見えないイタイ奴なんだろうけど、10歳の少女なら観ている我々にまでその前向きな姿勢が伝わってきて心地良いのだから不思議だ。ただ主題歌にもなっている「Tomorrow」が思いの外早い内に歌われちゃうってことにちと驚いた。イメージがそのままなんでもうちょっと引っ張ると思ってたから。

アニーはある日車に轢かれそうになるところを携帯電話会社のCEOで大金持ちのスタックに助けられる。実はスタックはNY市長選に打って出ていたのだけれど、支持率がいまいちだった。そこでアニーを援助する目的で一緒に生活し、彼女を使って支持率のアップを目論む。この作品は「友人は5人もいれば十分」「孤独が好き」と言って憚らないスタックの心の壁がアニーの純粋な心で壊されていく、そこに主題がある。即ち人を愛することの喜びや、どんなに苦しくたって自分は決して一人ではないんだよってことを教えてくれるんだね。スタックの優しさが徐々に溢れていく様子は観ていて嬉しくなってくる。

個人的に大好きだったのは、スタックがアニーに自分の秘密を語るシーン。父親が必死で働く姿を見て育った彼は「必死で働くことを決意したと」拳を握りしめるんだけど、その拳にアニーはそっと手をやり、人差し指を伸ばして自分に向け「今は私がいる」と言うんだ。拳を握りしめているということは0人、つまり愛する人も愛されることもなく必死で頑張ってきたという意味なんだけれど、アニーは優しく「そんなことはないよ、あなたを愛してくれる人はいるよ」と気づかせてくれたんだね。この拳の演出はここだけでなく劇中ラストを含め数回出てくる、とても嬉しい演出だった。

選挙参謀の企みで、アニーがニセの両親に引き取られたのをスタックたちがヘリコプターで追いかけるクライマックスは、本作で一番映画らしい。舞台とは異なる空間の広がりと映画らしいダイナミズムが溢れていたと思う。エンディングに流れた平井堅が歌う「Tomorrow」、これが予想以上に良くて聞き惚れてしまった。オール英語の歌詞で歌っているけれど、俺は正直言ってクヮヴェンジャネ・ウォレスが本編で歌っているより彼の方が気に入ったよ。殺伐とした悲しい事件が多い昨今だけに、僅か2時間弱だけでも心の重荷を忘れさせてくれる良作だと思う。

←Click Pleae♪ストーリー:現代のニューヨーク。アニー(クヮヴェンジャネ・ウォレス)は4歳のときに姿を消した両親に、いつの日か会えるときが来ることを夢見て、両親と別れたレストランに足しげく通っていた。ある日、アニーはIT長者でニューヨーク市長の有力候補とされるスタックス(ジェイミー・フォックス)に出会う。選挙スタッフに提案されてアニーを引き取ったスタックス。そんな中、アニーの両親に関わる知らせが届き…。(シネマトゥデイ)
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