上映前に王室の関係図を説明されたけれど、確かにそれを把握しないと背景が解りづらい。ただ映画そのものはある程度ざっくり解っていれば物語は解る。ただまあ折角なんでちょこっと調べつつ書いてみることにする。とりあえず映画の舞台では李朝は老論(ノロン)派と王派に分かれている。元をたどればイ・サンの祖父第21代王・英祖まで遡るんだ。英祖の後妃(後妻)・貞純王后(王大妃)はこの物語の悪玉親分として描かれている。実はイ・サンよりたった7歳年上なだけで、英祖との間に子がいない。英祖の長男は僅か10歳で亡くなっているから必然的に次男の思悼世子が後を継ぐことになるはずだったんだけど、老論派による弾圧事件を批判したため、彼らの謀略によって父・英祖に殺されることに。

そこでその息子であるイ・サンが第22代の王様に即位するんだけれど、この時罪人の息子は王になれないということで長男・思悼世子の養子になった。もっとも母の恵慶宮は健在で、この物語にも重要な役で登場する。老論派にしてみると自分たちの気に入らない跡継ぎを王に殺させその孫を即位させたのは傀儡として操りたいから。そんな彼らの神輿になったのが王大妃というわけだ。ハイ、ここまでが背景。実は何でわざわざ書いたかというと、この作品は単にこうした王宮の派閥争いだけじゃなく、劇中でイ・サンを暗殺しようとする刺客側にも深い人間関係が広がっていて、その2つの広がりが王宮の人間関係と重なってくるからなんだ。

イ・サンの刺客はウルスという男なんだけど、彼は幼いころに闇商人クァンに拉致され暗殺者として育てられた。そしてほかにもそういった子供たちは沢山いて、それらが宮中の老論派の高官に売り飛ばされていたんだね。つまり老論派の連中は王宮に暗殺者を飼っていたというワケで、その気になればいくらでも王など殺せる体制をとっていたということ。面白いのは、実は王の側近で宦官の尚冊もカプスという名前の刺客だったってところ。だったってのがミソで、彼は幼い頃からイ・サンと過ごす内に彼に感化されて彼を守ろうとするようになる。このカプスは更にウルスが兄貴と慕う男で、厳しい修行時代に幾度と無く彼を助けてきたという深い絆があった。

さあこう書いただけでも偉いこと人間関係が複雑なのが解ると思う。俺はこの作品がどうも今ひとつなのは、この複雑な人間関係を描くことに労力を割きすぎた身体と思ってるんだ。本当は王の話のはずだし、聡明で名高い正祖イ・サンがいかにして暗殺の禍を免れたのかが見たかったのに、そこは拍子抜けするほどアホらしい種明かしが待っていて、殆ど偶然に近いような幸運だったというのが不完全燃焼だった。どちらかと言えば王の話はぼちぼちで、カプスとウルスの数奇な運命の方に重きを置いていると言ってもいいぐらいなんだよね。カプスとウルスの絆はカプスが生命を賭してウルスを守ってきたことがしっかり見えるから、誰がどう観ても納得できる。

でも王と尚冊の絆は子供の頃からの付き合い以上の枠を出ない。一応それらしい描写を設けているけれど、そもそも幾ら生命を狙われているとはいえ王族だからね。そりゃカプスとウルスの関係には及ぶべくもないとしか思えないんだ。途中でイ・サンは尚冊の事をカプスと呼ぶんだけど、その名前はカプスとウルスの間の2人だけの秘密だったはずで、例えば子供の頃にその大切な秘密を明かすほどの出来事があったのならそれはそれで説得力がでてくるんだけど…。結局それはよく解らないままだった。他にも王をひたすら愚直に守る近衛隊長ホン・グギョンと将軍ク・ソンボクの対立や、恵慶宮による王大妃暗殺未遂事件などの見どころもあるが、本来なら連ドラとかの方がゆっくり楽しめる作品なんじゃないかな。

←Click Pleae♪ストーリー:1777年7月28日、即位から1年を迎えた李王朝第22代目国王イ・サン(ヒョンビン)は、常に暗殺の脅威にさらされていた。王は書庫と寝殿を兼ねる尊賢閣で不測の事態に備えてひそかに体を鍛え、そのそばには書庫を管理する尚冊として仕える宦官(かんがん)カプス(チョン・ジェヨン)がいつも控えていた。イ・サンは今は亡き先王への早朝のあいさつに向かい…。(シネマトゥデイ)
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