相変わらずディズニー・ピクサーにハズレ無し。安定したハイクオリティのアニメーションを生み出せるのは素晴らしいと思う。しかも今回はマーベルコミックスの「BIG HERO 6」をベースに作られているということで、日本を感じさせるシーンが随所に登場する。何しろ主人公の名前がヒロ、その兄がタダシ、タダシの死後にヒロの仲間になる4人にはワサビなんて名前の奴もいる。街中に「みたらし団子」だの「わらび餅」だのといった平仮名や漢字混じりの看板まで登場してくるんだから、これはかなり日本人的に馴染みやすいんじゃないだろうか。ヒロは14歳の天才少年で兄のタダシを尊敬している。実はベイマックスはタダシがヒロのために開発したケアロボットだった。

マシュマロマンを連想させるベイマックスはこれが実に可愛らしい。風船のように膨らむ身体は優しく包み込むためのものらしいが、その体型故にテトテトと歩く姿は何だかユーモラスで観ているだけで心が和んで笑顔になってしまう。ベイマックスの頭は鈴をモチーフにしたそうだが、体型からものび太に寄り添う「ドラえもん」へのオマージュも込められているんじゃないかと思った。彼はヒロが「ベイマックス!もう大丈夫だよ!」と言わない限りあれやこれやと世話を焼き続ける。しかしその行動の多くは天然ボケ。大まじめにヒロのためにすることが逆に彼を慌てさせるという…だから思わず笑っちゃうんだ。ただヒロとベイマックスの関係は、いわゆる友情関係みたいなものとはちょっと違う。

ケアロボットではあるけれど、どこかペットに近い感覚、言ってみればアニマルセラピーならぬロボットセラピーのような感じかもしれない。そんなベイマックスが本格的に活躍し始めるのはタダシが事故で亡くなってからだ。実はこの事故には裏があった。事故の真相に気付いたヒロはタダシの友人だった4人の仲間+ベイマックスで動き出す。ま、この辺からマーベルっぽいというか4人の仲間それぞれが個性的なパワードスーツを着用し、ベイマックスに至ってはそのまんまアイアンマンのような装甲を取り付けられる。実際ベイマックスは脚のパーツに付いたジェットで空を飛ぶのだけれど、最初に飛び上がる時のポーズはアイアンマンそっくり。

もっとここでも日米文化の融合は見られて、何と腕はマジンガーZならぬロケットパンチになっている(笑)そしてこのロケットパンチがクライマックスでの伏線になっていた。敵は歌舞伎のお面をかぶり、ヒロの開発したマイクロロボットを操る歌舞伎マン。マイクロロボットは一体一体は小さなロボットだが、歌舞伎マンは無数のマイクロロボットを脳波で操り攻撃してくる。うねうねと触手のように攻撃してくるマイクロロボットの集合体と戦う姿は『アベンジャー』のワンシーンみたいだ。ただこの作品がやっぱりディスニーだなと思うのは、敵を倒すことそのものが目的ではないこと。ベイマックスは基本的にケアロボットで彼のチップには人間を攻撃してはいけないとプログラムされているんだね。

敵を倒すことで恨みを晴らすのではなく、敵も味方も救い出す。そんなディズニーらしいクライマックスにはどうしたって感動は禁じ得なかったよ。ヒロを救うために自分を犠牲にしようとするベイマックス。ヒロは涙を浮かべながら「ベイマックス!もう大丈夫だよ!」と言う。そう言わないと彼はヒロの側を離れられないから…。これを聞いた時どこかでこんなシチュエーションを…と思っていたのだけれど、ふと思い出したよ。まるで「さようならドラえもん」でのび太が「もう安心して帰れるだろ、ドラえもん。」といった時みたいだなって。ディズニーから日本へのプレゼントと言われるだけあって、心にしっくりと来る作品だったな。

同時に上映されたショートムービー『愛犬とごちそう』も凄く良かった。大好きなご飯を嬉しそうに食べる犬の表情が素晴らしい!そこから飼い主との幸せな生活が想像でき、その飼い主の不幸がそのまま犬の不幸に繋がる。犬の視点から見つめ続けるこの作品は、短編と言えども心が締め付けられるほどに切なく、それ故にラストでは心と涙腺が一気に開放されてしまう。パトリック・オズボーン監督はこの作品が初監督だそうだ。元々はアニメーターだそうで、『ベイマックス』でもアニメーション・チーフを務めている。こんな素晴らしい作品を作る人が本編以外にも出てくるのだから、そりゃディズニー・ピクサーの作品のクオリティが高いのもうなずけるというものだ。

←Click Pleae♪ストーリー:西洋と東洋の文化がマッチし、最先端技術分野の先駆者たちが数多く住んでいるサンフランソウキョウ。そこに暮らしている14歳の天才児ヒロは、たった一人の肉親であった兄のタダシを亡くしてしまう。深い悲しみに沈む彼だったが、その前にタダシが開発した風船のように膨らむ柔らかくて白い体のロボット、ベイマックスが現れる。苦しんでいる人々を回復させるためのケアロボット・ベイマックスの優しさに触れて生気がよみがえってきたヒロは、タダシの死に不審なものを感じて真相を追い求めようと動き出す。(シネマトゥデイ)
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