まあここの所「タランティーノ監督絶賛!」て枕詞がそんなにでもないって事実はあるものの、まあそれでもみちゃうんだよな。イスラエル映画なんてめったに観ないけれど、過去に観た
『いのちの子ども』、
『レバノン』、
『戦場でワルツを』はいずれも実に面白かったのをよく覚えているし。さて、今回は割りとネタバレ。正直読まないで観た方が絶対おもしろいとは思う。気にしないという人だけ読み進めてください。まず物語の背景というかベースがある。それはとあるイスラエルの森で少女が侵された上に両手の指を折られ、足の爪を剥がされ、クビをのこぎりで切断されるという無残な事件が起こるんだね。

で、容疑者としてドロールという教師が浮かび上がってくる。刑事のミッキはドロールを拉致して暴力で自白を取ろうとするんだけど証拠不十分で釈放になってしまう。で、今度は被害少女の父親ギディがドロールを山奥の家に拉致して地下室に監禁、拷問で切断した頭部の在処をはかそうとするってわけ。一体全体ドロールは本当に犯人なのか!?ってところがミソなんだけど、それにしても躊躇なく拷問という手段に出てしまうところがいかにもイスラエルらしいなと思ってしまう。それも指をへし折るだけじゃなくて金槌で叩き潰し、ペンチで足の爪を剥がすなんて行為なのにサクッとやるのよ?

しかも途中でギディの父が訪ねてくるんだけど、そこから驚き更に倍増!父ちゃんは拷問の現場を目の当たりにしてしまうんだけど、そりゃもうあっさり息子の味方!ガスバーナーで胸の肉が焦げるまで焼いて、それをいいニオイだなんて恍惚としちゃうんだからもうヤバイったらありゃしない。ほんとイスラエルっていい感じに荒んでるのね。(苦笑)ただ思わず笑っちゃうのが、いざ指を折ろう、爪をはごうって瞬間に必ずなんか邪魔が入るの。緊張感が高まって高まって高まってふっと外すところ。「ちょ!おい!」ってな感じでずっこけちゃうんだね。

残酷なのに何だかそれほどでもなく感じるのはそういうブラックジョーク的要素が多いからだと思う。とはいえ結局は目も当てられないほど残虐なのは間違いない。それもあまりにも普通というか、異常が正常で、正常が異常に反転しちゃってて、なんか『ミザリー』を思い出してしまった。人間は自分が絶対正義で相手が絶対悪と信じこんだら何でも出来てしまうという例かな。問題はドロールが本当に犯人なのかどうかというところなんだけど、これが実にうまい具合にぼやかしている。ミスリードするような話は無いんだけど、とにかく全てがぼやっとはっきりしないように描かれているんだね。

ギディはドロールを捕まえるときに、邪魔になるミッキーも同時に捕まえて、銃を突きつけて拷問の共犯にしようとする。でもミッキーはあまりに異常なギディについていけなくなるんだ。すきを見て逃げ出そうとするミッキーはドロールを見捨てて行こうとするんだけどその時の言葉が実に上手い。曰く「俺を見捨てて逃げたら一生後悔するぞ。」これ一見、「冤罪で俺が殺されたらお前は一生後悔するぞ」って意味なんだけど…。何が起こったのかは観てのお楽しみ。ブラックジョーク的要素が多いこの作品だけど、劇中に馬に乗ったアラブ人が登場する。それはギディの家がアラブ人が多く済む地域にあるから。これってアラブ世界に囲まれたイスラエルの中で同じイスラエル人同士が殺し合うという、最大のブラックジョークかもしれないね。

←Click Pleae♪ストーリー:イスラエルのとある森で、少女がむごたらしく暴行された果てに殺される事件が起きる。その容疑者として浮かび上がったのは、中学校で宗教学を教えているドロール(ロテム・ケイナン)。刑事のミッキ(リオル・アシュケナージ)が責任者として彼の尋問にあたるものの、証拠がなく釈放されてしまう。さらに行き過ぎた取り調べが何者かによって録画され、動画サイトにアップされてしまったことでミッキは交通課に異動になってしまう。しかし、ミッキはドロールが犯人だと思っていて…。(シネマトゥデイ)
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