『マネーボール』もそうだったが、プロスポーツの裏側というのは普段滅多に見ることができないだけに、ドラマ仕立てでもドキュメンタリーのように楽しめてしまう。今回はアメリカンフットボールNFLのドラフト会議の裏側に迫った作品だ。日本のプロ野球ドラフト会議も表面に表れているだけで過去幾つものドラマが誕生しているのは御存知の通り。しかしえてしてそれは情緒的なことが多い。ところがスポーツと言えどもビジネスというのが徹底しているアメリカ、それも最大人気のNFLともなれば、正に裏側は虚々実々の駆け引きと、そこに込められた悲喜こもごもは日本プロ野球の比じゃない。つまりそれそのものがゲームであり、チームとしての戦いは既に始まっているんだね。

まず押さえるべきポイントは3つ。1つはドラフト指名順は前年の成績が悪かった順、いわゆる
ウェーバー方式ということ。そして2つ目、これが凄いのだけれど指名権のトレードが出来るということ。この作品では、最初に主人公サニー(ケヴィン・コスナー)が超大物ルーキーと、自チームの3年分の1巡目指名権をトレードするところからスタートする。そして3つ目が、コミッショナーが指名を指示してから10分以内に指名しなければいけないというルールだ。ちなみにこれらはチーム編成を担当するGM(ゼネラル・マネージャー)の専権事項になっている。サニーはクリーブランド・ブラウンズというチームのGMで、手持ちのカードを駆使してどれだけ良い選手を集められるかは彼にかかっているってワケ。

ただ専権事項とはいっても当然全てサニーにお任せ!とはならない。オーナーはチームの人気を上げるために人気選手を獲れと命じるし、監督は監督で今チームに必要なのはRB(ランニングバック)だと延々主張し続ける。当然サニーだって自分の考えるチーム作りがしたい。要するにチームに関わる3人の誰もが納得できる最適解を探すことになるんだね。それはもう胃に穴が空くんじゃないかってぐらい重圧がかかるわけで、このドラマではそれを表現する物差しにサニーとその恋人でチームの幹部アリ(ジェニファー・ガーナー)との関係を使っていた。さて、オーナー、監督、サニーこの3人はそれぞれ欲しい選手がいた。

オーナーが欲しいのは今年の全体1位指名が予想されるQB(クォーターバック)のボー・キャラハン。監督が欲しいのは父がブラウンズの元選手で本人もブラウンズを熱望しているRBのレイ・ジェニングス。そしてサニーは学生でありながら甥っ子の面倒も観ているLB(ラインバッカー)のボンテ・マックだ。ちなみにアメフトのポジション(QBとかRBとかLBとか)がわからない人は
こちらでも参考にして欲しい。ただ基本的にはそこはあまり重要じゃない。重要なのは普通にやったらオーナーと監督と自分の希望を全部実現するのは無理だということ。じゃあどうするのか…というよりサニーがどうしたのかってのがこの作品の肝になってくる。

面白いのは、ビジネス思考でありながら結局行き着くところは人間性で判断している点。その場で相手に勝つためだけでなく、しっかり未来を見据えた駆け引きをして、それ故に大成功を収めるというところ。もちろんギリギリの決断をしたり、迫ったりってのも痺れる要素ではあるんだけどね。ただ、観ていると正直言って誰が誰でどうなってるのかが解らなくなるかもしれない。そんな人のために下にざっくり流れをまとめておいたので参考にして下さい。ネタバレが嫌な方はご注意を!

←Click Pleae♪ストーリー:アメリカンフットボールのプロチーム、クリーブランド・ブラウンズ。そのゼネラルマネージャーを務めるサニー(ケヴィン・コスナー)は、成績の不振が続いているチームの状況に焦りを感じていた。地元ファンから寄せられる熱い期待とオーナーからのプレッシャーに応えるべく、12時間後に迫ったドラフト会議で是が非でも大物ルーキーを獲得せねばと決意する。そんな中、ライバルチームのGMの口車に乗せられて、自身とチームの存亡を揺るがしかねない危険なトレードに応じてしまうが…。(シネマトゥデイ)
【ブラウンズドラフトの流れ】1.「クリーブランド・ブラウンズの3年分の1巡目指名権」と「シアトル・シーホークスが自分たちの持つ全体トップの指名権」をトレード。これによりブラウンズは全体1位指名確実と言われていたスター選手ボー・キャラハンを獲得出来ることに。とにかくスター選手をゲットしてチーム人気を上げたいオーナーはご満悦。しかしチームの弱点はRBだといって譲らない監督は激おこ。サニーは渋々。
2.サニーは甥を養うために何としてもブラウンズの1巡目(全体7位)指名を希望するLBボンテが欲しい。しかし監督は同じ順位でチームに足りないRBジェニングスが欲しい。その後サニーはキャラハンがチームメイトに友達が全くいないという情報を得る。そして本人がすぐに嘘でごまかす人格であることが判明する。そこでサニーは全体1位で何とボンテを指名。
3.絶対にキャラハンだと思っていた他チームは、サニーがキャラハンの欠点を知って回避したのだと思い込み、全体2位~全体5位までのチームが全てキャラハンの指名を回避する。しかし全体7位は最初にトレードしたシーホークスで、そこにキャラハンを獲られたら、3年分の1巡目指名権を持って行かれた分ブラウンズは赤っ恥。そこでサニーは全体6位の指名権を持つジャガーズからその権利を3年分の2巡め指名権とトレードでゲット。
4.これで最悪シーホークスにキャラハンを獲られることは阻止できた。そしてサニーはシーホークスに全体6位指名権と全体7位指名権の交換+アルファを持ちかける。要するにキャラハンを譲る代わりに最初に渡した3年分の1巡目指名権を返すことと、
スペシャルチームの選手をつけるように要求。これをシーホークスが飲んだことで、全体7位でサニーはジェニングスを指名。
5.これで監督も欲しかった選手をゲットできてニッコニコ。結局ジャガーズに3年分の2巡目指名権を渡しただけで、サニーと監督の希望選手を獲得し、スペシャルチームの選手も獲れて、ドラフト戦略大成功でチーム人気はうなぎ登り。よってオーナーもニッコニコ。ついでに自分を信頼してくれたとばかりにもとからいたQBの士気上昇といいことづくめで万々歳。
※○巡目指名権…そのチームの指名順位。1巡目指名権はそのチームが最初に指名する権利。
※全体○位…
ウェーバー方式により各チームが指名していく際の指名順位。NFLは32チームあり、それぞれが7回指名できるので32×7で全体224位まであることになる。
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